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東京地方裁判所 昭和46年(行ク)28号 決定

申立人 中央労働委員会

被申立人 富士輸送機工業株式会社

主文

被申立人は、被申立人・申立人間の当庁昭和四五年(行ウ)第二三〇号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決の確定に至るまで、大阪府労委昭和四四年(不)第二五号不当労働行為救済申立事件(再審中労委昭和四五年(不再)第一九号事件)について、大阪府地方労働委員会が昭和四五年三月六日付で発した救済命令中、主文第一項について、その命令に従わなければならない。

(裁判官 中島恒 長西英三 戸田初雄)

〔参考資料〕

命令書(初審)

(大阪地労委昭和四四年(不)第二五号 昭和四五年三月六日命令)

申立人 富士輸送機工業労働組合

被申立人 富士輸送機工業株式会社

主文

一、被申立人は、申立人組合員の昭和四三年度賃上げについては、従業員の平均賃上げ額(三、九〇〇円)を下回らない額を支給しなければならない。

二、被申立人は、縦一メートル、横二メートルの木板に、下記のとおり、明瞭に記載してすみやかに、大阪支店玄関附近の従業員の見やすい場所に一〇日間掲示しなければならない。

年  月  日

富士輸送機工業労働組合

中央執行委員長 沢田哲夫殿

富士輸送機工業株式会社

取締役社長 内山正太郎

当社は、貴組合に対し、昭和四三年度賃上げについて、貴組合との団体交渉を拒否し、貴組合の組合員を差別取扱いしたことは、不当労働行為であることを認め、陳謝します。

なお今後、いつさい組合員である故の差別取扱いを行なわないことを誓約します。

以上大阪府地方労働委員会の命令により掲示します。

理由

第一認定した事実

1 当事者

被申立人富士輸送機工業株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を置き、大阪市、東京都に支店、全国各地に営業所、サービスステーションを置き、従業員約八五〇名を擁し、輸送機の製造販売を営む会社である。

申立人富士輸送機工業労働組合(以下「組合」という。)は、会社の従業員一九名(審問終結時)をもつて組織し、総評全国一般労働組合大阪地方連合会(以下「全国一般大阪地連」という。)に加盟している労働組合である。

なお、会社には組合のほかに昭和三四年一月結成され、その後、名称を変更した富士輸送機茨木労働組合および三七年二月結成された富士輸送機工業統一労働組合があつたが、四三年二月両労働組合が合併して設立された全富士輸送機工業従業員労働組合(以下「第二組合」という。)がある。

2 昭和四三年度賃上げについて

(一) 団体交渉の経過について

(1) 昭和四三年三月一五日、組合は会社に対し、組合員一人あたり一律一万円の賃上げを行なうこと、組合に対する差別撤廃等の一八項目にわたる要求書を提出するとともに、同日づけで、三月二一日午後六時からの団体交渉を申し入れた。この申し入れに対し会社は、「当日は、会社業務の都合のため団体交渉は開くことができない。団体交渉の日時は追つて会社側より通知する」旨回答した。

(2) その後、四月一二日、会社は「全社一人平均三、九〇〇円の賃金増額を行なう。そのうち一、五〇〇円は基本給、二、四〇〇円は能力給(査定、調整による。)とする。その他については、現行通りとする」旨の回答を行なつた。

これに対し、組合は四月一五日、一七日、午後六時からの団体交渉を申し入れ、これにより一七日団体交渉が開かれた。しかし、団体交渉の席上、出張旅費問題について口論になつた際、執行委員小沢大二が、会社側交渉委員に向つて「ばか」と言つたため、会社側は「ばかとは何だ。そういう発言は許せない」と言つて、席をけつてその場から出て行き団体交渉は打ち切られた。三、四〇分後委員長沢田哲夫は、会社側交渉委員である常務取締役石田喬のもとへ行つて謝罪したところ、石田常務は「今日は、皆が興奮しているので話にならない」旨答えたので、沢田は、その場はそれで帰り、組合としてもやむを得ず団体交渉をのばさざるを得なかつた。その後、組合は、会社に口頭あるいは電話により、早急に団体交渉を再開するよう申し入れたが、会社はこれに応じず、さらに五月一七日、文書をもつて、団体交渉再開を要求したところ、五月二四日、会社は「団体交渉を開くならば、まず四月一七日の団体交渉の席上での暴言に関して、謝罪文を出すよう」組合に通告した。一方、第二組合は団体交渉を行ない、四月二〇日ごろ会社回答通りで妥結し、同月二五日、申立人組合員を除いた全員が四月度分賃金から新賃金を支給された。

(3) 組合は、さらに団体交渉再開を要求したが、会社は、これに応じないため止むを得ず会社回答通りで妥結することを決定し、八月五日、会社に「会社回答通り妥結する」旨通告した。なお、その際「能力給査定については組合員であることの故に差別を行なわない」旨申し入れた。八月二三日、会社は組合に対して組合員の個人別賃上げ額の明細(別表)を示した。これによると、全社平均三、九〇〇円、組合員二一名平均三、二六六円、保守常駐課(以下「保駐課」という。)員一一名平均三、一九一円となる。

別表 (単位円)

氏名      昇給額  うち能力給

丹波由美子  三、〇〇〇円 一、五〇〇円

○広瀬忠敬   三、〇〇〇円 一、五〇〇円

○沢田哲夫   三、〇〇〇円 一、五〇〇円

○森田甫    三、〇〇〇円 一、五〇〇円

○(宇都宮浩) 三、九〇〇円 二、四〇〇円

○川上四郎   三、〇〇〇円 一、五〇〇円

○(堀正史)  三、〇〇〇円 一、五〇〇円

○辰巳治彦   三、二〇〇円 一、七〇〇円

○片山和夫   三、二〇〇円 一、七〇〇円

○矢野舜彦   三、五〇〇円 二、〇〇〇円

○小沢大二   三、三〇〇円 一、八〇〇円

○森本修    三、〇〇〇円 一、五〇〇円

(豊島喜代司) 四、〇〇〇円 二、五〇〇円

岸精四郎   四、〇〇〇円 二、五〇〇円

筒井彰    三、五〇〇円 二、〇〇〇円

(武井浄)   四、〇〇〇円 二、五〇〇円

(森下実)   一、五〇〇円     〇

(町野昭二)  三、〇〇〇円 一、五〇〇円

岩島伸二   三、五〇〇円 二、〇〇〇円

井沢日出夫  三、五〇〇円 二、〇〇〇円

金場昭三   三、五〇〇円 二、〇〇〇円

以上二一名( )内はすでに退社 ○印は保駐課員

(4) 八月二九日、組合は「この個人別明細は、組合員平均が全社平均に比較していちじるしく低く、これは組合員であるが故の差別扱いである」として団体交渉を申し入れたが、取締役営業本部長内山某は口頭でこれを拒否した。さらに、九月二四日、組合は再び団体交渉を申し入れたが、会社は「八月五日に妥結の申し入れがあつたので、その結果個人別賃上げ額の明細を示したわけであり、それについては諾否の返事だけでことが足りるので団体交渉を開く必要はない。又妥結した後団体交渉を開いたことはない」旨述べ、その申し入れを拒否した。その後、四三年度賃上げに関する団体交渉は開かれなかつた。

(5) なお、会社は「組合員平均が全社平均より低いのは、考課査定において、規律性、協調性、執務態度、職務遂行能力等が悪く、具体的には、〈1〉朝礼の件、〈2〉時間外労働、〈3〉就業時間中の組合活動、〈4〉集団有給休暇、〈5〉業務日報提出の点においてである。日常の仕事については人並にやつている」と主張している。

(二) 考課査定の方法について

会社は、毎年三月各部から人材発見表を提出させ、それに基づいて各人別の昇給案を作成する。昭和四三年度賃上げに伴う考課査定については、四二年三月一日から四三年三月一〇日までを考課査定対象期間とした。人材発見表は、勤怠、執務態度、職務遂行能力、協調性等の点についてそれぞれ一〇点満点とし、第一次査定者として課長および営業所長があたり、第二次査定者として部長および支店長のもとで各部内のバランスを取り、賃上げ妥結後、さらに全社的に各部間のバランスをみて賃金委員会で修正し、個人別賃上げ額が決定される。

(三) 考課査定上の問題点について

(1) 朝礼について

会社は、三九年ごろから午前八時三〇分の就業開始時に、朝の挨拶および社歌の合唱等を行なう朝礼を実施していた。

大阪支店においても、支店長住沢竜雄を中心に、全員が営業事務所に集まり朝礼を実施していたが、四一年一月八日、いつものとおり保駐課員は、課長中林義雄を先頭に朝礼位置に向かつていたが、八時三〇分のサイレンが鳴り、全員急いで朝礼位置についた。当日、たまたま社長内山正太郎が大阪支店の朝礼に参加しており、他課員より遅れて朝礼位置についた保駐課員に向かつて「全員退場」、さらに退場しかけた同課員に「全員遅刻だ」とどなつた。

組合は、このことに対し、「八時三〇分以前にタイムレコーダーを打刻しているので遅刻ではない」旨中林課長に抗議するとともに同日以降朝礼時に挨拶もかわさず、社歌も歌わなくなつた。

しかし当日保駐課員は遅刻扱いになつていなかつた。六月一三日以降会社は、保駐課員が朝礼時の挨拶もせず、社歌も歌わず、朝礼にふさわしくない態度を取り規律をみだすという理由で、営業事務所の通路の床にペンキで黄線をひき、保駐課員の朝礼位置を他の従業員から隔離した。

七月一日の団体交渉において、組合は、会社に対して黄線を取るよう要請したが、会社は「皆と一緒に朝の挨拶をかわし、社歌を歌えば、いつでも黄線を取り、皆と同じ朝礼位置にする」旨答えた。

それ以降、現在にいたるも黄線はひかれ、隔離したままである。

(2) 時間外労働について

会社は、多数組合である第二組合とは労働基準法第三六条の書面による協定(以下「三六協定」という。)を締結していたが、組合はこのことを知つていなかつた。

四二年三月二七日午後五時ごろ、三洋電機株式会社住之道輸送センターのエレベーターが故障を起こし、同社より保駐課に修理要請の電話があつた。

同課の広瀬忠敬は、直ちにその旨を住沢支店長に報告するとともに「自分は行けない」旨伝えた。

そこで住沢支店長は、サービス課に修理要請を行なつた。

しかし、サービス課には池田課長代理以外に故障係およびサービス課員は誰もいなかつたので、住沢支店長は再び広瀬に修理要請を行なつたが広瀬はこれを拒否した。そこで池田課長代理が修理に行つた。

なお、時間外の故障修理については、サービス課所属の故障係が行なうことになつている。

当日、保駐課員は、就業時間終了後、大阪支店の玄関で、午後六時過ぎまで、組合のビラを配つていた。

(3) 就業時間中の組合活動について

四二年一〇月二八日、沢田と執行委員森本修は、午前八時三〇分から午後四時四五分まで、全国一般大阪地連の中央委員会に出席するため、会社に届け出て、離席したが、これに対し会社は、一〇月三〇日組合に対し「一名についてのみ離席を認めていたのに、二名も行つたことは、事前承認制という原則を無視して業務の正常な運営を妨害した」旨の警告文を出した。

しかし、当時事前承認制については、組合、会社間で、いまだ協議中であつた。

その後、四二年一一月一〇日にいたり、会社は、組合に対し、「組合活動に関する協定案」を提示したが、一一月二〇日、組合は「この協定案には賛成できない。しかし、協定案にこだわらず、組合活動の自由を保障する内容を含む協定を結ぶ意思があるならば、いつでも交渉に応ずる」旨の回答書を会社あてに郵送した。

その後、会社と組合との間において、組合活動に関する協定はなされていない。

(4) 集団有給休暇について

四三年三月二日、沢田と書記長川上四郎は、同月四日の当委員会での審問に出頭するため、住沢支店長に離席届けを提出し、同支店長はこれを承認した。

四日、森田浦、森本、小沢、広瀬および片山和夫の五名は始業直後に有給休暇を請求し、片山を除く四名は当委員会の審問の傍聴に参加した。

そのため、保駐課には、辰巳治彦、矢野舜彦、宇都宮浩および堀正史の四名しか残つていなかつた。

三月六日、住沢支店長は、総務部長小林芳郎に対し、「三月四日保駐課員集団有給休暇に関する件」という文書を提出し、その状況および沢田を呼んで注意したことについて詳細に報告した。

三月七日、中林課長は三月四日の保駐課の出勤状況についての業務報告書を小林部長に提出し、当日の集団有給休暇の状況等を報告した。

三月一四日、会社は小林部長名で、保駐課の主任である沢田および片山を除く四名に対して訓戒書を出した。

(5) 業務日報提出について

四二年二月二日、会社は保駐課員の業務の進行状態を把握するため、事務所駐在員沢田、広瀬、川上および堀の四名に対し、二月三日より業務日報を提出するように指示したが、沢田らはこの指示に従わなかつた。

これに対し、会社は沢田らに二月二八日づけで、「三月三日までに業務日報を提出しない場合は、業務命令違反として規則に従つて処置する」旨の警告書を出した。

その後、三月四日以降、沢田らは業務日報を提出した。

第二判断

1 昭和四三年度賃上げにおける団体交渉について

組合は、会社が四月一七日の団体交渉の席上での組合の発言をとらえて、団体交渉を拒否し、さらに個人別賃上げ額提示後、団体交渉に応じないのは、不当労働行為であると主張し、これに対して会社は、団体交渉に応じなかつたのは組合が暴言について謝罪文を出さなかつたためであり、さらに個人別賃上げ額提示後は諾否の返事だけで足り、妥結以後の団体交渉は従来から行なわない慣行になつているので、団体交渉に応じなかつたものであり、不当労働行為ではないと主張するので、以下この点について判断する。

まず、団体交渉の席上での発言についてみるに、四月一七日の団体交渉の席上で、小沢が会社側交渉委員に向つて、「ばか」と言つたことは前記認定(一)の(2)のとおりであり、その発言は、出張旅費問題について口論になつた際の発言であるとはいえ、組合としては反省すべきであるといわざるを得ない。しかし、その三、四〇分後に沢田が石田常務のもとへ行つて謝罪しているにもかかわらず、その後の口頭あるいは電話、さらには文書をもつての団体交渉の要求に対して、ことさら謝罪文を出さなければ団体交渉には応じられないと拒否した会社の態度は失当である。

つぎに、個人別賃上げ額提示後の団体交渉についてみるに、組合が会社の回答額を不満としながらも妥結し、能力給査定については、組合員であることの故に差別を行なわない旨申し入れたこと、そして会社は、組合に対して個人別賃上げ額の明細を示したが、組合員の平均額は、全社平均額に比べて低かつたため、組合は、これを不満として会社に団体交渉を申し入れたこと、しかし、会社は、これを拒否したことは前記認定(一)の(3)のとおりである。

しかして、会社は、拒否の理由として、妥結の申し入れがあつたので個人別賃上げ額の明細を示したわけであり、諾否の返事だけで足りる。また妥結した後に団体交渉は行なわない慣行になつていると主張するが、たとえそういう慣行があつたとしても、そのことをもつて直ちに拒否の正当な理由となし得ず、むしろ積極的に団体交渉に応じ、低い理由について組合に具体的に説明する等の努力をすべきであり、会社の主張は理由がないものといわざるを得ない。

以上、会社の組合の団体交渉申し入れに応じない行為は、いずれも労働組合法第七条第二号に該当する不当労働行為である。

2 昭和四三年度賃上げについて

組合は、会社が昭和四三年度賃上げにおいて、組合員のみ不当に低い考課査定を行なつて差別扱いしたと主張するのに対し、会社は、考課査定は全社的に公正に決定したものであり、組合員平均が低かつたのは考課査定において規律性、協調性、執務態度、職務遂行能力等が悪かつたためであり、差別扱いでないと主張し、具体的に次の理由をあげるので、以下この点について判断する。

(1) 朝礼の件について

会社は、保駐課員は、朝礼時に挨拶もかわさず社歌も合唱しないが、これは「さあ、これから仕事をやるんだ」という一般従業員の気持を阻害するものであり、これを査定上チェックしたものであると主張するが、この点については、既に昭和四一年(不)第一四四号、昭和四二年(不)第五九号併合事件中、四二年度賃上げに関して、当委員会は、考課査定の対象とすることは妥当でないと判断しているが、その後会社は、改めることなく四三年度賃上げにおいても、考課査定の対象としたわけであり、かかる会社の主張は採用できない。

(2) 時間外労働について

会社は、エレベーターの故障は、時間外であつても生命にもかかわることであるのに、組合は積極的に、その修理に協力しようとしなかつたので、これを査定上チェックしたのであると主張するので、この点についてみるに前記認定(三)の(2)のとおり、時間外の故障修理については、原則的には、サービス課所属の故障係が行なうことになつていること、しかも、三洋電機株式会社から故障修理についての要請のあつた当日、組合は大阪支店の玄関でビラ配布等の時間外の組合活動を行なつていたこと、また、組合は、第二組合と会社との間に三六協定が締結されていることについては知つていなかつたこと、さらに組合員と会社との間に、残業に応ずるという契約があつたとの疎明がないこと等から勘案すると、会社が、保駐課の組合員が残業を拒否したことをもつて、会社に非協力的であるとして、考課査定の対象にしたとの会社の主張は採用できない。

(3) 就業時間中の組合活動について

会社は、一方的通告による強行離席が行なわれては、業務に多大な支障をきたす恐れがある。事前に承認をとりさえすれば、協定案に示すケースについては離席を承認するが、理由も述べないで強行離席した場合、これを査定上チェックするのは当然であると主張する。会社のいう昭和四二年一〇月二八日の沢田、森本の離席は、前記認定の(三)の(3)のとおり、無届けで離席したものではなく、会社に通告した後、離席しており、しかも離席については、会社と組合とは事前承認制について協議中で、いまだ協定はしておらず、従つて組合は従来の慣行により届出をすればそれで足りると解して行なつたものであり、承認を得なかつたとしても、会社が考課査定の対象にしたことは当を得ない。

(4) 集団有給休暇について

会社は、会社の承認がなく、一方的に集団で有給休暇をとつたことによつて業務の正常な運営が阻害されたので、これを査定上チェックしたものであると主張するので、この点についてみるに、前記認定(三)の(4)のとおり、保駐課には四名が残つており、その者が業務を代替して行なつており、会社のいうように業務の正常な運営が阻害されたとの疎明はなく、さらに有給休暇の請求があつたとき、会社がその期日の変更を申し入れたとの疎明もなく、従つてこのことに対して会社が考課査定の対象にしたことは当を得ない。

(5) 業務日報提出について

会社は、保駐課員の業務の進行状態を知るために、沢田ら四名に対し、業務日報の提出を求めたが、沢田らはこれに応じなかつたため、業務命令違反として査定上チェックしたものであると主張するので、この点についてみるに、業務日報の提出を求めた四二年二月三日は前記認定(二)のとおり、四三年度賃上げの査定期間外のことであり、また、業務日報の提出されたのは査定期間内の三月四日であつたとしても、会社が警告書により最終的に求めた業務日報提出期限は三月三日であつて、その翌日の四日から提出されていることは前記認定(三)の(5)のとおりであり、業務日報の提出期限より一日遅れたことによつて、あえてこれを考課査定の対象としたことは当を得ない。

以上総合して判断すると、会社があげる考課査定の理由は、いずれも採用できず、考課査定は公正に行なわれたとは認められない。そこで会社の真意についてみるに、会社と組合は昭和三九年以降ことあるごとに対立し、当委員会や中央労働委員会および裁判所で争つていること、さらに、会社は、日常の仕事については人並にやつていると認めているにもかかわらず、組合員平均額が低かつたことなどから勘案すると、会社の考課査定ならびにそれに基づく賃金配分は、組合の活動を嫌悪する会社が、ことさらに組合員に対し、不利益扱いした労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であると判断せざるを得ない。

以上の事実認定および判断に基づき、当委員会は、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条によつて、主文のとおり命令する。

命令書(再審)

(中労委昭和四五年(不再)第一九号 昭和四五年九月一六日命令)

再審査申立人 富士輸送機工業株式会社

再審査被申立人 富士輸送機工業労働組合

主文

本件再審査申立てを棄却する。

理由

第一当委員会の認定した事実

1 当事者

(1) 再審査申立人富士輸送機工業株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本社を、大阪市、東京都に支店を、全国各地に営業所、サービスステーションをおき、輸送機の製造販売を営む会社で、その従業員数は、昭和四五年八月現在約九六〇名である。

(2) 再審査被申立人富士輸送機工業労働組合(以下「組合」という。)は、会社の従業員をもつて組織し、総評全国一般労働組合大阪地方連合会(以下「大阪地連」という。)に加盟している労働組合で、その組合員数は、昭和四五年八月現在一六名である。

(3) 会社には、組合のほかに富士輸送機茨木労働組合および富士輸送工業統一労働組合(以下「統一労組」という。)があつたが、昭和四三年二月両労働組合が合併して全富士輸送機工業従業員労働組合(以下「全従組」という。)となり、その組合員数は、昭和四四年九月当時約三〇〇名である。

2 組合結成以後の労使事情

(1) 組合は、昭和三四年二月結成され、昭和三七年一月頃の組合員数は約二六〇名であつたが、同年二月組合脱退者により統一労組が結成され、組合員数は約八〇名に減少した。

昭和四〇年八月会社は、本社の一部が茨木市に移転した際、組合役員らを大阪支店(それまでの本社)に新設した施設課に配置転換した。施設課は、課長を除く二三名全員が組合員で構成され、昭和四一年四月保守常駐課(以下「保駐課」という。)と改称された。昭和四一年四月当時大阪の組合員は、丹波由美子を除き保駐課の一七名であつたが、その後保駐課員は退職者が続出し、補充が行なわれないので、昭和四四年七月には九名となつた。

(2) 昭和三九年会社は、従来通告のみで認められていた就業時間中の組合活動を許可制とする旨組合に通告し、当時会社内にあつた三労働組合のうち被申立人組合のみにチェック・オフを廃止し、「土壌をよくする運動」を提唱して社内放送あるいは社内報により暗に組合の活動家を指して「瓦のカケラやガラスの破片あるいは石ころ」等と中傷し、組合青婦部副部長小沢佳代子を本社総務課タイピストから京都営業所に配置転換し、会社施設内での組合のビラ配布を禁止し、組合事務所の使用時間を制限する等の処置をとつた。

また、会社は、昭和四一年度および昭和四二年度賃上げに際し、組合員の賃上げをその他の従業員の賃上げと差別した。

そして、〈1〉就業時間中の組合活動の許可制通告、〈2〉チェック・オフの廃止、〈3〉組合事務所の使用時間の制限の問題については、昭和四一年三月一六日付当委員会の命令において、会社の行為は、いずれも不当労働行為と認定され、会社は、〈1〉就業時間中における組合活動および組合活動のための会社施設の利用について承認制を運用するにあたつては、その基準および手続に関して組合と協議しなければならない、〈2〉組合に対するチェック・オフについて、他の組合と差別せず従前と同一に取り扱わなければならないとされた。会社施設内のビラ配布禁止の問題についても、昭和四一年七月二九日大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)の命令において、会社の行為は不当労働行為と認定され、会社は、組合に対して陳謝文を交付しなければならないとされており、昭和四四年一〇月一日付当委員会の命令においても、上記命令は支持されている。

さらに、昭和四一年度および昭和四二年度賃上げの差別の問題についても、昭和四三年七月二六日付大阪地労委の命令において、会社の行為は、いずれも不当労働行為と認定され、会社は、〈1〉組合員中、昭和四一年四月度以降の賃金につき、従業員一人平均の賃上げ率で計算した額を下回るものについては、その差額分を昇給させ、支給しなければならない、〈2〉組合員の昭和四二年度賃上げについては、従業員の平均賃上げ相当額を下回つてはならないとされており、昭和四四年一〇月一日付当委員会の命令においても、上記命令は支持されている。

次に、小沢青婦部副部長の京都への配置転換発令の問題についても、昭和四一年二月大阪地方裁判所(以下「大阪地裁」という。)において、地位保全仮処分申請が認容されている。

(3) 大阪支店では全員が毎朝営業事務所に集まり朝礼を実施しているが、会社は、昭和四一年六月一三日以降営業事務所の床にペンキで黄線を引き、保駐課員の朝礼位置を廊下の部分と定め、他の従業員から差別した。

(4) 昭和四二年二月一日会社は、大阪支店従業員代表と労働基準法第三六条の時間外労働、休日労働の協定を締結したが、組合にはこのことが知らされていなかつた。

また、会社の時間外の故障修理は、原則的には、サービス課の故障係が担当することになつていた。

同年三月二七日会社の就業時間終了(午後四時四五分)後の午後五時頃三洋電機住ノ道輸送センターからエレベーターが故障したので修理してほしい旨の電話が保駐課にあつた。保駐課員広瀬忠敬は、大阪支店長住沢竜雄にその旨報告し、「保駐課員は行くことができない。」と言つた。

住沢支店長は、サービス課に修理要請を行なつたが、サービス課には課長代理池田某しかいなかつたので、広瀬に修理を要請した。しかし、広瀬は、これを拒否したので、住沢支店長は池田課長代理に修理を命じた。

当日、保駐課員は、就業時間終了後午後六時過ぎまで大阪支店の玄関で組合のビラを配布した。

なお、昭和四二年二月一六日から同年六月一五日までの間に保駐課員は、故障修理等の時間外労働を一人月平均一六時間以上していたところ、同年六月一六日会社は、保駐課あてに「時間外に発生した故障修理は、全てサービス課の担当とする。」旨を通告している。

(5) 会社における就業時間中の組合活動は、昭和三五年六月一六日会社、組合間で「今後組合活動のため離職した場合は賃金カットを行なうが事故扱いとしない。」との協定が締結されていたが、前記(1)のとおり会社は、昭和三九年一月事前に承認を得ることを要求し、承認を得ない職場離脱は無届欠勤とする旨を組合に通告した。この問題については、昭和四一年三月一六日付当委員会の命令において、会社の行為は、不当労働行為と認定され、会社は、就業時間中の組合活動について承認制を運用するにあたつては、その基準および手続に関して組合と協議しなければならないとされていることは、前記(2)のとおりである。

昭和四二年一〇月二八日、組合執行委員長沢田哲夫と組合執行委員森本修は、午前八時三〇分から午後四時四五分まで大阪地連中央委員会に出席するため、会社に届け出て離席した。同月三〇日会社は組合に対して「一名の職場離脱を承認したのに二名とも職場離脱を強行したことは、事前承認制という原則を無視して業務の正常な運営を妨害した行為であり、今後かかる行為を強行するときは相当の処分を行なう。」旨の警告書を出した。

会社は、同年一一月一〇日組合に組合活動に関する協定書案を提示し、同月一五日協定書案を早急に調印したい旨組合に申し入れ、組合は、同月二〇日「提示案には反対する。組合活動の自由を保障する内容を含む協定を結ぶ意志があるならば交渉に応ずる。」旨回答した。

その後会社、組合とも交渉の申入れを行なわず、組合活動に関する協定はなされていない。

(6) 昭和四三年三月二日沢田委員長と組合書記長川上四郎は、同月四日の大阪地労委の審問に出席するため離席届を住沢支店長に提出し、承認された。

同月四日始業直後に保駐課員森田甫、森本、小沢大二、広瀬、片山和夫の五名は、有給休暇を請求し、片山を除く四名は、大阪地労委の審問を傍聴した。そのため当日保駐課には辰巳治彦ら四名が勤務していた。

同月6日住沢支店長は、総務部長小林芳郎に三月四日保駐課員集団有給休暇の状況および沢田を呼んで注意したことについての報告書を提出した。

三月一四日小林部長は、保駐課の沢田および森田、森本、小沢、広瀬の五名に対して訓戒書を交付した。

(7) 昭和四二年二月二日中林課長は、保駐課員沢田、広瀬、川上、堀に対し、業務の進行状況を業務日報として提出するよう指示した。しかし、沢田らは、この指示に従わなかつたので、同月一六日住沢支店長は、沢田、広瀬に対し、業務日報を提出するよう説得し、同月二八日住沢支店長は、沢田ら四名に「三月三日までに業務日報を提出しない場合は、業務命令違反として処置する。」旨の警告書を交付した。

沢田ら四名は、三月四日から業務日報を提出している。

3 昭和四三年度賃上げの団体交渉の経緯

(1) 昭和四三年三月一五日組合は、会社に対し、組合員一人一律一万円の賃上げ、組合に対する差別の廃止等一八項目の要求書を提出し、同日付で三月二一日午後六時から団体交渉をもつように申し入れた。

(2) 同月一九日会社は、「団体交渉開催の日時については、会社業務の都合により追つて通知する。」と回答し、四月一二日会社は、「全社一人平均三、九〇〇円の賃金増額を行う。配分につき一、五〇〇円は基本給一律、二、四〇〇円は能力給とし査定(調整を含む。)とする。その他の要求項目は現行通りとする。」旨の回答を行なつた。四月一五日会社は、組合に同月一七日午後六時から団体交渉を行ないたいと通知した。

(3) 四月一七日開催された第一回団体交渉において、出張旅費問題で会社側、組合側の間に口論が生じ、組合執行委員小沢が会社側交渉委員に向つて「ばか」と言つた。このため会社側は、「ばかとは何だ。そういう暴言は許せない。」と言つて席を立ち、団体交渉は中断された。

約三〇分後沢田委員長は、会社側交渉委員である常務取締役石田喬に謝罪したところ、石田常務は「今日は皆が興奮しているので話にならない。」旨答えたので沢田は、その場はそれで帰り、組合もやむを得ず団体交渉をのばさざるを得なかつた。

(4) その後組合は、会社に口頭あるいは電話によつて早急に団体交渉を再開するよう申し入れたが、会社は、これに応じなかつたので、さらに五月一七日団体交渉の再開を申し入れた。

これに対して会社は、五月二四日「四月一七日の団体交渉席上の暴言に関してまず組合から文書で謝罪の意思表示をするよう。」に組合に通告し、その後組合からの団体交渉再開の申入れには応じなかつた。

(5) 全従組は、賃上げについて四月二〇日頃会社回答通りで妥結し、組合員を除く会社従業員は、四月分賃金から新賃金を支給されている。

(6) 組合は、会社の謝罪文要求は団体交渉拒否の口実であるが、組合員の生活が困窮しているので、団体交渉拒否を争つていることはできないと判断し、八月五日「四月一二日付会社回答通り妥結する。能力給査定については組合員であることの故をもつて差別を行なわない。」ことを会社に申し入れた。

(7) 八月二三日会社は、組合に「査定の結果、組合員の個人別賃金増額は下記の通りであり、これで諒承なら協定したいので回答願いたい。」旨を通知し、次の組合員個人別賃上げ額明細を示した。

氏名

昇給額

うち能力給

氏名

昇給額

うち能力給

丹波由美子

三、〇〇〇

一、五〇〇

○森本修

三、〇〇〇

一、五〇〇

○広瀬忠敬

三、〇〇〇

一、五〇〇

豊島喜代司

四、〇〇〇

二、五〇〇

○沢田哲夫

三、〇〇〇

一、五〇〇

岸精四郎

四、〇〇〇

二、五〇〇

○森田甫

三、〇〇〇

一、五〇〇

筒井彰

三、五〇〇

二、〇〇〇

○宇都宮浩

三、九〇〇

二、四〇〇

武井浄

四、〇〇〇

二、五〇〇

○川上四郎

三、〇〇〇

一、五〇〇

森下実

一、五〇〇

○堀正史

三、〇〇〇

一、五〇〇

町野昭二

三、〇〇〇

一、五〇〇

○辰巳治彦

三、二〇〇

一、七〇〇

岩島伸二

三、五〇〇

二、〇〇〇

○片山和夫

三、二〇〇

一、七〇〇

井沢日出夫

三、五〇〇

二、〇〇〇

○矢野舜彦

三、五〇〇

二、〇〇〇

金場昭三

三、五〇〇

二、〇〇〇

○小沢大二

三、三〇〇

一、八〇〇

○印は保駐課員

(8) この個人別明細について組合は、全社平均三、九〇〇円、組合員二一名平均三、二六六円、保駐課員一一名平均三、一九一円であり、組合員の年令、勤続等を考慮するなら極端な差別であるとして、八月二九日会社に対して団体交渉を申し入れた。しかし、会社側団体交渉委員である取締役営業本部長内山芳太郎は、口頭でこれを拒否した。

(9) 九月二四日再度組合は、団体交渉を申し入れたが、会社は、「八月五日に組合から妥結の申し入れがあつたから個人別賃上げ額明細を示したのであつて、諾否の返事でことがたり、妥結の後に団体交渉を開いたこともなく、個人別賃上げ額は苦情処理委員会でとり上げるべきである。」旨述べて団体交渉を拒否した。

(10) その後昭和四三年度賃上げに関する団体交渉は開かれず、組合員の賃上げは行なわれていない。

4 会社の考課査定

(1) 会社は、毎年三月各部から人材発見表を提出させ、それに基ずいて各人別の賃上げ案を作成する。

昭和四三年度の賃上げに伴う考課査定は、昭和四二年三月一日から昭和四三年三月一〇日までの期間を対象として行なわれた。

(2) 人材発見表は、規律性、協調性、積極性等の一〇項目につき各項目を一〇点満点とし、第一次査定を課長、第二次査定を部長が行なつて賃金委員会に提出する。賃金委員会では、各部門間の調整を行ない、その評点によつて総原資を考慮しながら各人別の賃上げ額を決定する。

(3) 会社は、昭和四三年度の組合員個人別の賃上げ額が低いのは、考課査定が悪かつたからであり、組合員の考課査定は、規律性、協調性、積極性、責任感の項目が悪く、具体的には〈1〉朝礼の態度、〈2〉時間外労働の拒否、〈3〉就業時間中の組合活動、〈4〉集団有給休暇、〈5〉業務日報提出の各点についてであるが、日常の仕事は人並みに行なつていると主張している。

以上の事実が認められる。

第二当委員会の判断

1 従前の労使事情をめぐる諸問題

前記第一の2の(2)認定のとおり、会社、組合間には、昭和三九年以降〈1〉就業時間中の組合活動の許可制通告、〈2〉チェック・オフの廃止、〈3〉小沢青婦部副部長の京都への配置転換発令、〈4〉会社施設内でのビラ配布の禁止、〈5〉組合事務所の使用時間の制限、〈6〉昭和四一年度および昭和四二年度賃上げの差別等の諸問題が相ついで起こり、大阪地労委、大阪地裁および当委員会から上記諸問題について、それぞれ、命令、判決により組合または組合員が救済されているのであるが、現在にいたるまで上記のような労使の対立関係は解消していない。

2 昭和四三年度賃上げに関する団体交渉について

(1) 団体交渉での発言を理由とする団体交渉の拒否について

会社は、団体交渉の席上における小沢執行委員の「ばか」という暴言は、全く弁解の余地のない違法行為であつて、正常な団体交渉を継続できるような状態ではなく、会社側が席を立つて交渉を中断したことは当然のことであり、その後、上記暴言について組合が正式に謝罪をしてきたならば、会社は団体交渉に応ずる旨双方確約したが、組合は、正式な謝罪をすることなく、団体交渉の申入れをしてきたので、会社は、上記の確約に従い、正式な謝罪が前提条件である旨回答したものであつて、団体交渉を拒否したものではないと主張するので、まずこの点について判断する。

なるほど、小沢執行委員の「ばか」という発言は、前記第一の3の(3)認定のとおり、出張旅費問題について口論になつた際のものであるとはいえ、組合としては反省すべきであるといわざるを得ないが、組合は、約三〇分後に沢田委員長から石田常務に対し謝罪している。会社は、組合が正式に謝罪してきたならば団体交渉に応ずる旨双方が確約したと主張するが、そのような事実はこれを認めることができない。したがつて、会社は、組合が謝罪文を出さなければ団体交渉には応じないとの態度で、その後の組合の口頭あるいは電話さらには文書をもつての団体交渉の申入れを拒否しているのであるから、会社の主張する理由は、上記団体交渉を拒否する正当なものと認めることはできない。

よつて、これを不当労働行為とした初審判断は相当である。

(2) 個人別賃上げ額提示後の団体交渉の拒否について

会社は、個人別賃上げ額についての不服、不審等については、従来より苦情処理という方法で調整することになつており、このために苦情処理委員会を設け、同委員会において調整してきたものであり、ことさら団体交渉というのは開かないという慣行のもとにこれまで異議なく経過してきたものであると主張する。

しかしながら、個人別賃上げ額についての不服、不審等については、たとえ会社の主張するような苦情処理の慣行があつたとしても、苦情処理委員会は、会社の職制のみによつて構成されるものであることを考えると、このことをもつて組合の団体交渉の申入れを拒否することは適当でない。

むしろ、会社は、積極的に組合との団体交渉に応じ、組合員の賃上げ額の低い理由について組合に具体的な説明をする等の努力をすべきであり、会社の主張は理由がないものといわざるを得ない。

よつて、これを不当労働行為とした初審判断は相当である。

3 昭和四三年度賃上げについて

会社は、前記第一の4の(3)の認定のとおり、昭和四三年度の組合員の個人別の賃上げ額が低いのは、考課査定が悪かつたからであり、組合員の考課査定は、規律性、協調性、積極性、責任感の項目が悪く、具体的には、〈1〉朝礼の態度、〈2〉時間外労働の拒否、〈3〉就業時間中の組合活動、〈4〉集団有給休暇、〈5〉業務日報の提出の各点についてであるが、日常の仕事は人並に行なつていると主張するので、以下、これを項目別に判断する。

(1) 朝礼の態度について

会社は、毎日行われている朝礼に、保駐課員は一度も挨拶を交わさず、社歌も合唱しなかつた、このようなことは、規律と協調を重んずる企業という一つの集団の構成員として極めて不適格であり、賃金査定の重要な考課査定になることは多言を要しないと主張する。

しかしながら、保駐課員の上記のような朝礼の態度は、前記第一の2の(3)認定のとおり、会社が床にペンキで黄線を引き、保駐課員の朝礼の位置を他の従業員から差別していることに起因しているものであつて、この点に関する会社の主張は採用できない。

(2) 時間外労働の拒否について

会社は、エレベーターの故障は、時間外であつても生命にかかわることであるのに、保駐課員は積極的にその修理に協力しようとしなかつたのであるから、仕事に対する責任感が全く欠けていることは明らかであつて、考課査定の最も重要な資料としてチェックしたのであると主張する。

しかしながら

〈1〉 前記第一の2の(4)認定のとおり、時間外の故障修理は、原則的にはサービス課の故障係が行なうことになつていたこと

〈2〉 前記第一の2の(4)認定のとおり、組合員は、必要な時間外労働に従事しており、当日の時間外労働は、就業時間終了後要請されたので、組合員としては、その後予定していたこともあつてその要請に応じなかつたのであること

〈3〉 前記第一の2の(4)認定のとおり、被申立人組合は、会社と全従組との間に協定が締結されていることについては知らされていなかつたこと

等の諸事情からみて、保駐課の組合員が時間外労働を拒否したことをもつて会社に非協力であるとして、考課査定の対象としたとの会社の主張は採用できない。

(3) 就業時間中の組合活動について

会社は、就業時間中の組合活動は会社の事前承認を要するというのが根本原則であり、仮りに従来の慣行が届出制であつたとしても、それは事前承認制が確認された現在は存在しない、しかも、事前承認制運用の基準、手続についての協議を組合の方から拒否しているのであると主張する。

しかしながら

〈1〉 前記第一の2の(2)および(5)認定のとおり、当委員会の命令により、会社は、就業時間中における組合活動について承認制を運用するにあたつては、その基準および手続に関して組合と協議しなければならないとされている、そして前記第一の2の(5)認定のとおり、昭和四二年一一月一〇日会社は、組合に対し上記事項についての協定書案を提示しているが、これに対し組合は、同月二〇日「提示案には反対する。組合活動の自由を保障する内容を含む協定を結ぶ意志があるならば交渉に応ずる。」旨回答したが、その後、会社、組合とも交渉の申入れを行なつていないため、本件の協定がなされていないのであるから、本件の協議がととのつていないことについて、組合にのみ責任があるとはいえないこと

〈2〉 前記第一の2の(5)認定の昭和三五年六月一六日付会社、組合間の協定は、なお効力を有すると解するのが相当であること

〈3〉 しかも、前記第一の2の(5)認定のとおり、沢田委員長、森本執行委員は、無届けで離席したものではなく、会社に通告した後離席していること

等の諸事情からみて、会社がこのことを考課査定の対象にしたことは当を得ない。

(4) 集団有給休暇について

会社は、業務の正常な運営が阻害されることがないように有給休暇をとることについても配慮がなければならないにもかかわらず、当日の朝になつて急に有給休暇をとつたため、当日の定期サービス業務の手配が不可能になつたのであつて、会社としては考課査定の資料としたことは当然であると主張する。

しかしながら

〈1〉 前記第一の2の(6)認定のとおり、保駐課には当日四名が残つてそれらの者が業務を代替して行なつており、会社のいうように業務の運営が阻害されたとは認められないこと

〈2〉 前記第一の2の(6)認定のとおり、会社は、有給休暇の請求を拒否した事実もなく、会社が有給休暇の請求があつたとき、その期日の変更を申し入れたとの資料もないこと

等の諸事情からみて、このことを会社が考課査定の対象としたことは当を得ないものというべきである。

(5) 業務日報の提出

会社は業務日報の提出を口頭あるいは文書で命じても実行されず、やむなく警告書を出すにいたつたのであつて、業務日報の提出を求めるために警告書まで出さなければならないことは異常なことである、会社としては、従業員の日々の仕事の内容や実績を把握するために命じたものであり、それを単に従業員の主観や憶測に基づいて必要性の有無を判断されたのでは会社の秩序は保てない、業務日報提出命令に従わなかつた組合員は、会社に全く非協力的なむしろ反抗的な従業員であると認定され、考課査定上減点されることは当然なことであると主張する。

しかしながら

〈1〉 会社が業務日報の提出を求め、警告書を交付したのは、前記第一の2の(7)認定のとおり、昭和四三年二月三日および同月二八日のことであつて、昭和四三年度賃上げの考課査定対象期間(昭和四二年三月一日から昭和四三年三月一〇日まで。)外のことであるばかりでなく、昭和四二年度賃上げに際しても、会社は同一の理由で組合員の考課査定を悪くしており、これが当を得ないことは既に当委員会が昭和四四年一〇月一日付の命令で判断しているところであること

〈2〉 前記第一の2の(7)認定のとおり、会社から業務日報の提出を求められた保駐課員は、会社の提出期限よりわずか一日遅れた三月四日から業務日報を提出していること

等の諸事情からみて、会社がこのことを考課査定の対象としたことは当を得ない。

(6) 不当労働行為の成否について

〈1〉 前記(1)ないし(5)判断のとおり、会社の主張する組合員の考課査定の悪い理由は、いずれも当を得ないこと

〈2〉 組合員が日常の仕事については、人並みにやつていることを会社も認めていること

等の諸事情と前記1および2判断のとおり、会社は組合を嫌悪し、組合および組合員に対し不当労働行為を継続して行なつていることを併せ考えると、昭和四三年度賃上げに際しても、会社は前記理由に藉口して、組合員の考課査定およびそれに基づく個人別賃上げ額について差別し、あわせて組合の弱体化を意図したものと認めざるを得ず、これをもつて不当労働行為に該当するとした初審判断は相当である。

以上のとおり、本件再審査申立てには理由がない。

よつて、労働組合法第二五条、同第二七条および労働委員会規則第五五条を適用して主文のとおり命令する。

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